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    不定期連載久々! 帝音伝説〜第二章〜

    • 2007.07.16 Monday
    • 01:06
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    帝音夜華怒〜渋沢燕編〜『帝の音、北に鮮やかな朝…』
    第十五話 八王子大集会 其の四

     集会場に張り詰めた空気がゆっくりと流れている。
    では八王子大集会にお集まりいただいたOBの客人達をご紹介していこう。

    先頭を歩く和服姿の男は元福生百合牙羅亜(ユリゲラー)総長、八王子帝音夜華怒初代統制参謀の市川静治、通称着流しの静治だ。
    華道の家本に生まれた彼は2年前既に族は引退し、お家継承の為、現在修行中の身である。
    その後ろが諸星潤、通称ナニの潤。
    元東村山血野奴殺連盟の会長だったが、帝音夜華怒と合併してからは族発展の為に幹部職を控え若い奴らの育成に当たった。あえて支えに徹したその姿勢は男を上げた。
    着流しの静治が抜け、韋駄天の和季を統制参謀に推薦したのも潤である。和季が二代目統制参謀襲名をきっかけに、自ら引退。今は社会人として一生懸命働いている。

    その後ろに3歳くらいの女の子を抱いた大柄の男と、彼に寄り添う女がいる。
    帝音夜華怒が結成される以前に八王子を仕切っていた暴走族、“甲州連合”の二代目総長須田ちよのさんと副長の南部さんだ。
    更に、切込隊長の手錠の丈さんと統制参謀の加東五右衛門さんも後ろに連なっていた。
    若い衆に緊張が走るのも無理はない。
    少し離れてくねくねと歩く男は甲州連合初代総長の蛇年の朝雄さんである。
    「びびってんじゃねんだよ、かしこまってんじゃねんだよ」
    と、ブツブツ言いながら若い衆に絡んでいた。
    若い衆は冷や汗を垂らしながらブルっていたが、みんな今では所帯持ちの良きお父さんである。

    OB達は若い衆の間を通り過ぎると、今度は自分達も両サイドへ並び整列した。

    後方から更なる人影が現れた。


    不定期連載 帝音伝説〜第二章〜

    • 2007.05.22 Tuesday
    • 14:17
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    帝音夜華怒〜渋沢燕編〜『帝の音、北に鮮やかな朝…』
    第十四話 八王子大集会 其の三

     幹部達は頭を下げる若い衆の中を悠々と歩き、用意されてるステージ上へ並んだ。ちなみにこのステージは昼間鳶職をやってる若い衆が組み立てたものである。

    中央で貫禄充分に立っている女が八王子帝音夜華怒総長安藤れい子、通称アンドレだ。
    右隣にいるのは副長の天田真綺、通称バーボン、その隣が親衛隊長の宮木珠夜、通称ガンのおったま。そして偵察隊長の渡り鳥の迷子がいる。
    左隣にいってみると、まずは特攻隊長の桜井誠、通称狂犬の桜井。その隣が切込隊長千葉久美子、通称殺人拳千葉ちゃんだ。
    二代目統制参謀の韋駄天の和季は全体に目を光らせながらその横についた。
    後方には旗持ちの曽根崎くんが見える。

    と、ここまではいつもの全集と変わらない顔ぶれだが今夜の空気は違っていた。
    幹部達の後ろに連なっていた三台の車のドアが次々に開くと、中から人影がぬぅっと現れた。

    若い衆の一人赤松平蔵、通称あかべーはその人影に真っ先に気付き、目をまるくしながら息を殺してささやいた、
    「あ、あれは!」
    隣にいた若い衆の一人フーパー鳶井が、
    「どしたあかべー?」
    同じく息を殺して聞き返した。
    その横にいた燕もそれに気づき、
    「どうしたの?」
    とあかべーの尋常じゃない顔に目をやった。
    この三人は同期で、気心がしれた仲である。

    あかべーは油汗を滲ませながら、
    「OBだ」
    「あ?」
    「八王子歴代の大OBたちだ!」
    殺していたはずの声は完全に漏れ、すぐさまざわめきとなり広がった。

    「しぃぃぃぃぃぃぃ!」
    韋駄天の和季が唇に人差し指を立て一喝し、ざわめきを制すると、総長のアンドレが姿勢を正し、腹から大きな声をしぼり出した。
    「今夜は歴代の諸先輩方を、お忙しい中私らの集会にお招きした。一同、肩より低くこうべを垂れい!」

    力強い号令が発せられると、予期せぬ客人に、若い衆全員ひれ伏した。

    つづく。

    不定期連載 帝音伝説〜第二章〜

    • 2007.05.07 Monday
    • 17:05
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    帝音夜華怒〜渋沢燕編〜『帝の音、北に鮮やかな朝…』
    第十三話 八王子大集会 其のニ

     遠くから次第に近付いて来るその音は紛れもなく轟音であった。その轟音とともに輝くライト群の光は、まさしく総長と幹部達のご到着である!!!

    闇を貫く音と光に気づいた場内は一気に緊張で包まれた。
    ボンボンボボボンボンボンボン!と吹かしまくって先頭を走るバイクは特攻隊長だろう。その勇ましい吹かし音と蛇行テクニックで場内の連中はすぐにわかった。
    その後ろに総長、総長を囲むように両サイドには切込隊長、副長、親衛隊長が並び、更に後方には三台の車が連なっている。
    小津川も興奮しているのか、ゆらゆらと波が立ちはじめていた。揺れる水面にかすかな月明かりで写る影が見える。影は川向こうの土手に停車している一台のバイクと人を照らしていた。暗がりの中、集会の様子を窺っている男、キム・チジョンである。
    燕を集会場まで送ると、
    「んじゃ、俺関係ねーから」
    と、さっさと引き上げたチジョンだが、こんな遠目からしっかりと観察していた。彼もこの大集会を気にしているようだ。
    ショッポーを一本口にくわえ、マッチを擦ろうとしたその時、背後から人影がぬ〜と現れた。チジョンは一瞬力んだが、
    「俺だよ」
    の声に、力を解いた。ウォン先生である。
    「……なんすか?」
    「校外で会うとみんなそう言うな」
    「いきなり現れるからっすよ」
    チジョンはショッポーとマッチをすぐさましまった。
    「今夜の集会はなんか盛り上がってんな」
    「全集らしいっすから」「詳しいなお前」
    ウォンは土手にドサッと腰を下ろし、人差し指を軽く立てると、
    「一本くれ」
    そうつぶやいた。
    チジョンは苦い顔をしながらショッポーの箱をウォンに放ると、再び集会場に目をやった。タバコを加えながらウォン先生は、
    「まるで花火大会だな」と、火をつけこの男もまた集会場に目をやった。

    総長と幹部達のバイクは場内を周回しながら爆音を轟かせている。くるくる振っている総長の右手がピタッと止まると、幹部達は一斉にバイクを停車させエンジンを切った。
    地に足をつけメットを外し、顔を露わにした幹部達に、
    「チチチチチース!」
    と大声音が響いた。

    つづく。

    不定期連載 帝音伝説〜第二章〜

    • 2007.04.27 Friday
    • 18:49
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    帝音夜華怒〜渋沢燕編〜『帝の音、北に鮮やかな朝…』
    第十二話 八王子大集会 其の一

     八王子市小津。
    小津川が流れるこの辺りは街の中心から外れ、山々に囲まれたのどかなとこである。小津川の水面に映る夕陽はとても穏やかな風景に彩られ、散歩や水遊びをするには絶好のオアシスだ。
    民家もまばらな為、夜になるとこの辺りは静まり返り闇に包まれてしまう。たまにカップルの乗用車が止まってるくらいで、ひとけもほとんどない。
    しかし土曜日の夜となるとその様子は一変する。様々な爆音とゆらゆらと蛇行するライトが集合しその晩だけは奴らの絶好のオアシスだ。
    八王子市小津。
    小津川が流れるこの辺りが八王子帝音夜華怒の集会場所である。
    周囲に民家も少なくゴミもちゃんと持ち帰る為か、近隣からの苦情はほとんどない。川に住む魚や山に住む鳥達は、あるいは苦情がたまってるのかもしれないが…

    帝音夜華怒が結成されたのはちょうど三年前だ。八王子が中心となり、隣接する日野市、立川市、福生市、青梅市、東村山市まで勢力を広げ、今では構成員180人からなる西東京最大の暴走族となっていた。
    月終わりの土曜は全集会の日だ。各支部から一挙に集まる様はまさにお祭り騒ぎである。この夜だけは警察も目を光らせていた。
    今夜はまさにその月終わりの大集会の日。既に数え切れないほどの改造バイクや車が川のほとりにズラッと停車され、うようよと人影がうごめいている。先輩方が到着する度に「チチチチチース!」と勢いのある挨拶が飛び交い、夜の小津川は興奮していた。
    そんな中に小さな燕の姿もあった。兄を探してるのかキョロキョロと辺りをしきりに見回している。
    「チース!」と元気よくビールを注いで回ってる若者が一際目立っていた。
    荒野竜二、通称アレの竜二だ。まだ中学生なので正式な加入は許されてないが、見習いとして奮闘している。

    会場を取り仕切っているのは統制参謀の韋駄天の和季だ。トレードマークのアイマスクと学帽姿で場内を段取りよくまとめている。

    その和季がいち早く遠くの音に気づいた。

    つづく。

    不定期連載 帝音伝説〜第二章〜

    • 2007.04.23 Monday
    • 20:55
    20070423_329724.jpg
    帝音夜華怒〜渋沢燕編〜『帝の音、北に鮮やかな朝…』
    第十一話 ウォン先生

     ウォン先生はニコニコ立っていた。その笑みに胡散臭さいものをドングンは感じながら、
    「なんすか?俺今おとなしくしてますよ」
    「からむなよ」
    この人にドングンは幾度も指導されている。見た目はただのおっさんだが、こう見えてもテコンドーの師範で、さすがのドングンもかなわない部分が多々ある。
    ウォン先生は窓から半身を覗かせるドングンに近寄りながら、
    「サンエン、帝音夜華怒とつるんでるんだって?」
    と、話し出した。
    「あいつは真面目にやるると思ったんだけどなぁ、やっぱ兄妹だな」
    「…すいません、用があるんで」
    ドングンはそそくさと窓を閉めようとした。確かに山口百恵に聴き入る用はあったが、この教師とあまり話したくないのが本音だ。
    ウォンは背広の内ポケットからサッと封筒を取り出すとドングンに差し向け、窓を閉めかけの手を止めさせた。
    「なんすか?」
    「ラブレターだ」
    つまらぬ洒落を言いながらそのままドングンへ手渡した。
    「なんすか!?」
    「自分で開けて確認してみろ」
    ウォン先生はハイライトに火をつけ、空に向かってひと吹かしした。しぶしぶ封を開け中の用紙を広げてみるとドングンの目つきが変わった。タバコの煙がモワッとドングンの顔を覆ったがドングンはまばたきもせず少し強張った顔で用紙に見入っている。ウォン先生はふた吹かしすると、
    「お前にも兵役がまわってきたな、そういう国だ、しょうがねーや」
    朝鮮高校総番ジュン・ドングンは簡単に同様を見せる男ではない。しかし表情を変えないようにしている表情がウォンにはよくわかった。
    「ちょうどアリランの花が綺麗に咲いてる頃だな向こうは」
    毎年日本から若者を送り出す時の決まり文句がそれだ。それがウォン先生の精一杯の励ましの言葉だった。
    ウォン先生はタバコをくわえたまま歩き出し、
    「身支度しとけよ」
    そう、背中で言いながら去って行った。

    ドングンは窓を閉めきりドサッと座り込むと、『いい日旅立ち』に針を落とした…

    つづく。

    不定期連載 帝音伝説〜第二章〜

    • 2007.04.22 Sunday
    • 12:36
    20070422_329032.jpg
    帝音夜華怒〜渋沢燕編〜『帝の音、北に鮮やかな朝…』
    第十話 兄の想い…

     ドングンはチジョンに睨みをきかせると、
    「おめー、妹に手出したら」
    「とんでもないっす、そんなこと自分しないっすから!」
    チジョンはびびりながらもしっかりと受け答えした。
    「チジョン」
    「チェース!」
    「帝音夜華怒入んねーのか?」
    ドングンは真面目に質問した。
    燕と同級生のチジョンは、以前から燕に帝音入りを誘われているが、ずっとしぶっている。
    「ちょっと抵抗あるんすよね、やっぱ自分、日本人と…」
    「安藤れい子って女は、そんな小せい奴じゃねぇよ」
    八王子帝音夜華怒総長安藤れい子、通称アンドレ。ドングンはこの日本人に深い心根と強い信頼をおいて妹を預けていた。
    一度、燕が街のごろつきにからまれてるところをアンドレが助けたことがある。
    この頃は、どの街でも日本の若者と朝鮮学校の若者のいざこざは絶えなかった時代だ。差別的な行為にも似た暴力は争いに発展し、民族間の難しさを露呈していた。
    しかし安藤れい子という日本人は違っていた。
    『日本人も朝鮮人も関係あるかい。同じ街に住む人間じゃねーか』
    彼女が燕を助けた時に言い切った言葉だ。それ以来燕はアンドレに惚れ、帝音夜華怒入りを望んだ。アンドレの生き様と人間をしっかりと見定めたドングンは、去年妹の帝音入りを認め、そして、託した。
    「おめーもいっぺん会ってみろよ」
    「チス」
    「チジョン、妹を、サンエンをよ」
    言いかけで燕がやってきたのでドングンは話すのをやめた。
    燕がバイクの後ろに乗りチジョンにしがみつくとエンジンが吹かされた。
    「事故んなよ」
    「チス!失礼します!」けたたましいエンジン音に消されないよう燕は大声で叫んだ。
    「お兄ちゃん集会来てよ」
    爆音は住宅街に消えて行った。
    「あいつらつかまるぞ、あんな改造車乗ってたら」
    突然背後から声を発したのは朝鮮高校生活指導のウォンである。
    「ウォン先生」
    「よっ!」

    つづく。

    不定期連載 帝音伝説〜第二章〜

    • 2007.04.18 Wednesday
    • 18:48
    20070418_327176.jpg
    帝音夜華怒〜渋沢燕編〜『帝の音、北に鮮やかな朝…』
    第九話 兄と妹

     襖越しに燕の声が聞こえてきた。
    「お兄ちゃん今夜集会あるよ」
    「俺関係ねーだろ」
    「お兄ちゃんも顔出して欲しいって和季先輩から言付けされたの」
    「俺行ってどうすんだよ?」
    「知らない」
    レコード針がブチブチ言ってる、曲が終わったようだ。襖が開くと燕は特攻服に着替えていた。
    「来てよね、私が怒られちゃうから」
    ドングンは燕の特攻服姿をじーっと見つめている。
    「何よ?」
    「だいぶ、様になってきたじゃんよ」
    「本当?」
    燕はちょっと嬉しかった。16、7の女の子がオシャレした姿を人に誉められて喜ぶように、燕は特攻服姿を誉められ喜んでいる。…好みと生き方が違うだけで感情は普通の若者と一緒だ。なんか、そういうのってなんかいいよね。
    「でもまだ目力がねーな」
    「目力?」
    ドングンは指摘もしてやった。
    「おめーは背ちっこいんだからよ、どんな相手も下から鋭く見上げる目力がねーと、なめらちまうよ」
    「目力…」
    燕はさっそく目をパチパチさせながら、目力というものを練習してみた。壁にかけてある鏡に自分を映し更に練習をしてみる。
    ドングンは再びドーナツ盤に針をかけ、『いい日旅立ち』を聴き入る態勢になろうとした時、家の前にバイクが止まる音がした。しかも近所迷惑よろしくブォンブォン吹かしている。
    ドングンは窓を開け、
    「うるせーぞこら!」と一喝すると、
    「あ、すいませんす!」と大慌てのキム・チジョンがそこにいた。チジョンはバイクから降り、
    「すいませんす!、おらおら、おられる、おれ、おられないと思ってました!」とかなり焦った様子で姿勢を正している。
    「今百恵ちゃん聴いてんだ、静かにして」
    「ウェス!」
    燕も窓から顔を覗かせ、
    「チジョン!」
    そう言いながら手を振ってみせるとチジョンは軽く顎先をうなずかせた。
    そんな二人の様子を見て兄は、ん?と何かを感じ、
    「おいなんだお前ら、怪しいな?」
    「変なこと言わないでよ、集会来てよね」
    そう言いながら燕は玄関に急いだ。少し同様を見せた妹の仕草に、兄はなぜか胸がキュンとしてしまった。

    つづく。

    不定期連載 帝音伝説〜第二章〜

    • 2007.04.16 Monday
    • 18:20
    20070416_326179.jpg
    帝音夜華怒〜渋沢燕編〜『帝の音、北に鮮やかな朝…』
    第八話 その男、ドングン

     閑静な住宅地に平屋が並ぶ一角があった。その中から『いい日旅立ち』が聞こえてくる家がある。内部を覗くと、部屋の片隅に置かれたレコードプレーヤーでは45回転のドーナツ版がクルクル回っていた。すぐ横にはジャケット裏の歌詞を凝視している男がいる。
    玄関からガラガラと戸が開く音がし、
    「ただいま!」
    と女の子の声が聞こえたが、その声に耳を傾ける気配すら男にはない。耳は流れてる曲へ、目は歌詞カードへ、だった。
    足音が近づき襖がすっと開くと、制服姿の燕が立っていた。少しズベ公な雰囲気を醸し出してはいるがどこかまだあどけなく、何よりちゃんと学校へは行ってようだ。
    燕は聞き入ってる男の背中越しに話しかけた。
    「新曲?」
    男はすぐに返答した。
    「あぁ『いい日旅立ち』ってんだ。いい歌だべ」
    「もうレコード買ってきたの?」
    「おう、作詞作曲谷村新司だぜアリスの」
    山口百恵の歌声に聞きほれているその男は燕の兄、ジュン・ドングンである。
    百恵命ではあるが、これでも朝鮮高校では総番を務め、近隣のツッパリ達からは一目置かれる存在だ。

    ここは東京の外れにある八王子という街。田舎東京というマイノリティな環境が逆に若者を活気づけていた。おかげで不良達も多く在住している。
    現在その八王子を仕切っている族が八王子帝音夜華怒であった。
    ドングンは加入してないが燕は去年正式にメンバーとなり、只今女を磨いている。

    燕はドングンの正面へ座り一緒に山口百恵を聞いた。
    「歌詞見せて」
    「歌詞もいい」
    そう言いながら燕に歌詞カードを渡してやった。
    「どう?ほらどう?」
    「やばいね」
    「やべーだろ?マジでいい歌だべ?」
    「売れるね」
    「当たり前だよ、ベストテン1位だよぜってー」
    「でも引退すんでしょ山口百恵?」
    ドングンは歌詞カードを燕から取り上げ、
    「しねーよ、彼女は歌姫だ、引退なんかしねー!」
    そう強がって言い聞かせた。
    燕は立ち上がり制服のスカーフに手をかけると、
    「着替えるから出て」
    「今聞いてんじゃん」
    「早く」
    「なんだよ」
    ドングンは無理やり部屋から追い出され襖を閉められたが、それでもドングンは襖の向こうから聞こえくる『いい日旅立ち』を聞いている。

    つづく。

    不定期連載 帝音伝説〜第二章〜

    • 2007.04.14 Saturday
    • 17:33
    20070414_324985.jpg
    この回は『いい日旅立ち』を聴きながらお読みいただくと、よりいい感じです。('-^*)/

    帝音夜華怒〜渋沢燕編〜『帝の音、北に鮮やかな朝…』
    第七話 いい日旅立ち

     チジョンの目の前に飛んできた指輪は半分砂に埋もれたが、チジョンには認識出来た。自分の左手にはめられている指輪とお揃いの物であることは認識出来た。

    カーラジオから聞こえてくる『いい日旅立ち』を耳にしながら、燕は再び海向こうを見つめ、韋駄天に問いかけた。
    「和季先輩、この海の向こうは朝鮮だよね?」
    和季は一瞬返答に迷ったが、素直に答えた。
    「…いえ、ここは太平洋ですので、正確には朝鮮国は反対側に位置します」
    「そっか」
    「はい」
    「私、方向音痴だから」「いえ」
    「でもさ、海でつながってるでしょ?日本も朝鮮も…」
    「…チチチチチース!」和季は素直に返事を返してやった。
    「曽根崎くん!ラジオの音上げて!」
    「チチチチチース!」
    大きく返事をした曽根崎くんがカーラジオのボリュームを最大にすると、『いい日旅立ち』が浜辺中に鳴り響いた。その音に驚いた海鳥達は羽音を立て飛び上がっている。
    燕は海に向かって喋り出した。
    「お兄ちゃん、山口百恵が引退したよ。商売道具のマイクをステージに置いてさ、私は二度とマイクは持たないと、大きな誓いを込めてステージに置いたんだよ。それ見たら私泣いちゃったよ、彼女の覚悟と決意の強さに泣いたのよ」
    くりっとした燕の瞳に涙が溢れ出してきた。
    「前略お兄ちゃん。そっちはどうですか?寒いですか?ちゃんと食べてますか?兵隊の訓練はしんどいですか?こっちは、お兄ちゃんの大好きな山口百恵が引退しました。強い女です山口百恵は!きっと伝説になる歌い手です!」
    ギュッと下唇を噛み締め、
    「……覚悟と決意ってしんどいねお兄ちゃん!」
    そう言いながらポタポタと涙は砂浜に染み込んでいった。
    『いい日旅立ち』が浜辺中に鳴り響いている。

    ちょうど一年前、
    あの時もこの曲が流れていたのを燕は思い出していた…

    つづく。

    不定期連載 帝音伝説〜第二章〜

    • 2007.04.13 Friday
    • 16:32
    20070413_324384.jpg
    帝音夜華怒〜渋沢燕編〜『帝の音、北に鮮やかな朝…』
    第六話 曽根崎くん、再び

     「関係ないんだよ。…あの人はそう言ったんだ。初代総長安藤れい子さんって人は、関係ないって言ってくれたんだよ」
    チジョンは口から流れ出てる血を拭いながら、
    「日本人と俺達は流れてる血が違う!」
    「何が違うの?おんなじじゃない、みんな真っ赤な血だよ。あんたのその血もそうでしょ?」
    チジョンはチラっと拭った血に目をやった。
    「日本人も朝鮮人も、みんな真っ赤な血が流れてるんだよ、私はその血とその意志と、この族名とこの特攻服をあの人から受け継いだんだ…そしてあの族旗も!」
    燕は指差した。指差す方向にはシャコタンの改造車が一台停車している。ボンネットの上には大の字で寝転がり、帝音夜華怒の旗を持ってる男がいた。髪は巨大なアフロで体もでかい。
    「曽根崎くん!」
    燕の大声に飛び起きたその男は八王子帝音夜華怒旗持ち、曽根崎くんである。
    以前は韋駄天の和季と同様、東村山血野奴殺連盟にいたが、帝音夜華怒と合併してからは旗持ちを務めている。
    学はないが、台風で突風が吹いても旗をバッサバッサ翻す彼の剛腕は早大応援団からスカウトが来ていたほどだ。
    曽根崎くんは燕の声に反応し、旗を左右に大きく振り始めた。
    改造車のカーラジオからは音楽が流れている。
    山口百恵の『いい日旅立ち』

    「見えるチジョン、私達はみんなあの旗の下に覚悟と決意を誓ったんだよ」
    チジョンは左右に揺れる旗をじっと見つめた。潮風が吹く中で、八王子帝音夜華怒と刺繍された旗は、曽根崎くんの見事な振りっぷりで活き活きと泳いでいる。

    潮風で髪を乱しながら、燕は左手にはめていた指輪をスゥっと外し、チジョンの眼前に放り投げた…

    つづく。

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